こんにちは。画像診断医かずです。
今回は今話題の「直美(医師になって直接美容外科に行くこと)」「直産(医師になって直接産業医に行くこと)」がなぜ生じてしまうのかについて書いてみようと思います。
最近、世間から厳しい目を向けられている美容外科に進む医師たち。
美容の他にも、産業医や在宅医療、またホワイト科とされている我らが放射線科や皮膚科、精神科に進む医師が増えるなど、医師・医療はかつてない方向に動いています。
反対に外科が減り、メディアが「医療崩壊だ!」と騒ぎ始めましたが、その原因がなんなのか掘り下げている報道はほとんどありません。
でも、働いている身からすれば理由は明白、「今の保険診療というシステムそのものが、すでに経済的に壊れているから」です。
「直美」「直産」とその裏にある歪んだ医療経済の構造、我々医師がこれから生き残るためにどう行動すべきか。
さっそく見ていきましょう。
医療経済構造と問題点
医療に回る金は頭打ち!
まず、現在の医療現場を覆っている閉塞感の正体について、経済的な視点から解剖してみましょう。
一言で言えば、「入ってくるお金は増えないのに、出ていくコストだけが上がり、そのツケが現場の人件費(我々の給料)に回っている」 という状況です。
ご存知の通り、日本の医療は国民皆保険制度という社会保険料(50%)と税金(38%)で大半が賄われています。
でも、年々高齢者は増え、もちろん医療費も増える。
その上で診療報酬を増やせば支出は爆発的に増えるため、国は2年に1回の診療報酬改定で医療費の総枠をガチガチにコントロールするのです。
つまり、世の中の物価がどう変わろうと、医療業界全体で「回るお金」の原資は最初から頭打ちにされているのです。

要するにどんだけ忙しくても、どんだけ材料費や維持費にお金を取られても、渡せるお金の上限はこれだけだと最初から決められているのです。
かつては「医者は儲かる」と言われた時代もありました。
それはまだ、医療機器や薬が比較的安価で、シンプルな診療でも経営が成り立っていた時代の遺物です。
一方現代の医療はどうでしょうか。
我々が毎日向き合うCTやMRI、PETなどの画像診断機器、日々進歩する高額な抗がん剤や分子標的薬、そして昨今の電気代をはじめとする燃料費・維持費の高騰。
これらはすべて「病院が支払わなければならない必要経費」です。
貰えるお金が増えない中で、これら必要経費が高騰すればどこが削られるか。答えは一つしかありません。医療従事者の「人件費」です。
結果として、他の一般産業界がインフレに伴ってベースアップや給与引き上げに動いている最中、医療関係者の給与はほとんど上昇していません。
それどころか、当直代の抑制やサービス残業の常態化によって、実質的な労働単価は下がり続けています。
医師という技術職
本来、医師という職業は、法律(医師法・医療法)で厳格に資格が縛られており、誰でもなれるわけではありません。
人体について深く学んだうえで、長年磨き上げた技術で人の命を救う、あるいは病気を見つけ出すという高度な専門技術を持つ人間は、社会全体で見ても圧倒的な少数派です。
市場原理(需要と供給の法則)が正常に働けば、その技術やサービスの価格は高騰し、需要はいくらでもあるはずなのです。

30年戦士の先生の手技・手術なんて、本来何百万円かけてでも受けたい人はいるはずなのです。
現に、海外の医師の平均給与を見てみてください。
アメリカや欧米諸国では、勤務医であっても年収3,000万〜4,000万円を超えることは珍しくありません。お隣韓国だって医師の給与は相当高いです。
その理由は市場原理に基づいて、専門性の高さに見合った正当な対価が支払われているからです。
しかし、日本では国が価格(診療報酬)を縛っています。
どんなに難しい手術をしても、どんなに当直で難しい対応をしても、国が決めた一律の点数しか請求できません。
このおかしな制度に身をおきながら「人を助けたい」という一心で、日々身を粉にして働いている医師たちの目に、自由診療の世界がどう映るかは火を見るより明らかです。
特に美容医療の世界は、国による価格統制がありません。需要と供給、そして自身のマーケティングや技術次第で、勤務医時代の数倍の「高給」を得ることが可能です。
そしてQOL(生活の質)も圧倒的に高い。
これを「魂を売った」などと批判するのは全くの筋違いです。
人の悩みを技術で救うこともできる上、労働に見合った対価が得られ、かつ自分の時間も約束される。
経済合理性から見れば直美が増えるのは当然の帰結なのです。
解決策
医療制度の大規模な改変が必須!
では、この過酷な状況を打開するための根本的な解決策は何でしょうか。
身も蓋もない話をすれば、「日本の医療費(診療報酬・自己負担額)を大幅に引き上げること」、これに尽きます。
医療という高度なインフラを維持するためには、単純にもっと多くの現金をシステム内に投入し、医療従事者へ労働に見合った正当な報酬が渡るようにするしかありません。
しかし、これが実現するかと言われれば、極めて絶望的です。
なぜなら、現在の日本の医療の最大のユーザー(消費者)は高齢者層だからです。
日本の民主主義は、人口ボリュームの多い高齢者の意見が選挙結果を左右する「シルバーデモクラシー」です。
医療費の自己負担を増やしたり、窓口負担を上げたりするような政策は、高齢者層からの猛烈な反感を買います。
そしてそれは即、時の政府の支持率急落へと直結します。

ちなみに、僕はチームみらいを推しているのですが、理由はここにあります。
「医療制度は持たないことをはっきり言う」それがはじめの一歩としてとても大事なことだと思うのです。
ですから、時の政権や厚生労働省が、表立って「医療費を抜本的に上げます。国民の皆さん、負担を増やしてください」と推し進めることは絶対にありません。
彼らにとって、医療費引き上げは選挙で負けるためのスイッチのようなものだからです。
いつも実質的な原資は増やさないまま、「医師の働き方改革」といった小手先の調整でお茶を濁すだけ。
時間外労働に上限を設ければ、表面上の数字は綺麗になりますが、現場の仕事量が減るわけではありません。
結局は書類に書けない「自主的な勉強」や「サービス労働」に形を変えるだけで、本質的な解決からは程遠いものです。

論文を書けだの、勉強会・学会に出ろだの言われますが、そういうのは全く労働時間としてカウントされません。何なら本や学会費は自費です。
国や社会は、少数派である我々現役の医師に対して、「医療の聖職性」や「使命感」という都合の良い言葉を使い、「もっと頑張れ」「自己犠牲を払え」と葉っぱをかけるのみです。
システムを直す気がないのに、現場の人間性だけで崩壊を防ごうとしている。これが今の日本の医療政策のリアルです。
我々にできること
医療制度は持たないと態度で示し続ける!
この未来のない閉塞感の中で、私たち医療関係者はどう振る舞うべきでしょうか。
私は、「言葉ではなく、態度で示すべきだ」 と強く思っています。
「患者のために」「地域医療を守るために」と、自己犠牲を伴う過重労働に甘んじ続けることは、結果としてこの腐ったシステムを延命させる片棒を担ぐことになってしまいます。
私たちがどれだけ無理をして病院に残り続けても、国は「なんだ、まだ現場は回っているじゃないか」と安心し、抜本的な改革をさらに先送りするだけです。
正直に言って、今の保険診療の枠組みの中にしがみついていても、勤務医としての明るい未来は見えません。
だからこそ、「自由診療の領域へ進むこと、あるいは組織に依存しない個人の足場を築くこと」 を本気で考えるべきだと思っています。
これは何も、全員が今すぐ美容外科医に転身せよという意味ではありません。
国に価格を縛られた「保険診療」という狭い世界から一歩外に出れば、医師の持つ知識や問題解決能力、そして何より「医師免許」という社会的信用を活かして、もっと活躍できる場所・それに見合った正当な対価を得られる場所がいくらでもあるはずなのです。
例えば医療系スタートアップへの参画、予防医療やウェルネスビジネス、自由診療クリニックの立ち上げ、あるいは自身の専門性を活かしたデジタルコンテンツの展開など、アプローチは無限にあります。
大切なのは、いつでも逃げられるように逃げ道を用意しておくことです。

かく言う僕も、このブログが逃げ道の1つになっています。あと産業医資格を持っていたりもしますね。
まとめ
- 直美・直産が増えるのは医療システムに歪みがあるから
- 国は医師個人に責任をなすりつけて根本的な問題から目を逸らそうとしている
- 医療制度の抜本的な改革がない限り逃げられる準備をしておくべき
今回は、直美・直産が増える本質的な理由について、医療経済の構造からお話ししました。
増えない原資、高騰する維持費、その結果目減りする給与。
この歪んだ状態が直美・直産という問題を生み出しているのです。

稼ぎたい医師が増えた訳ではなく、保険診療の将来に希望が見えない医師が増えているのです。国・受益者はその事実を直視する必要があります。
いかに日本の医療体制がまずい状況かお分かりいただけたでしょうか。
意見がある方はコメント、共感したという方はSNSでのシェアをお待ちしております。
それではまた次回。


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